金沢地方裁判所 昭和63年(ワ)331号 判決 1992年4月24日
主文
一 原告の被告らに対する各請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
【事 実】
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して金四一七七万三八〇一円及びこれに対する昭和六一年一〇月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 1につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告両名共通)
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生と原告の被害内容
(一) 昭和六一年一〇月一二日、石川県西部緑地公園陸上競技場において、金沢市陸上競技協会(以下「陸協」という)が主催する第一二回金沢市陸上競技選手権大会及び第一六回金沢市陸上カーニバル(以上合わせて「本件大会」という)が開催された。
(二) 原告は、当時金沢市立高岡中学校一年在学中で本件大会には砲丸投げ選手として出場しており、また被告乙山春子(以下「被告乙山」という)は、当時金沢大学一年在学中で、同じくヤリ投げ選手として出場していた。
(三) 同日午前一一時ころ、被告乙山が手に持つていたヤリ投げ用のヤリが別紙第一現場見取図(一)記載の<2>の位置付近(以下この付近を「本件事故現場」という)にいた原告の左目付近に突き刺さり、原告の左前頭蓋底から右前頭葉にまで達するという事故(以下「本件事故」という)が発生した。
(四) 原告は、右事故の結果、左眼瞼挫創、脳挫傷、右急性硬膜下血腫の傷害を負い、同日から昭和六二年三月九日までの一四八日間、訴外石川県立中央病院に入院し、退院後も平成元年夏ころまで同病院に通院することを余儀なくされた。
原告の現状は、左上肢及び右下肢の運動不能による歩行障害によつて跛行し、起立も不自由であるほか、視力の低下・複視、排便障害などがあつて、日常生活に多大の支障をきたしており、家族の協力を必要としている。
2 被告らの責任原因
(一) 被告乙山の責任(民法七〇九条)
被告乙山が保持していた競技用のヤリは両端が尖つていて、かつ全長二・二メートル以上あり、身体に突き刺さるなどして重大な損傷を他人に与えるおそれがあつたものであるから、多数の関係者らが参加していた本件大会において、これを保持するヤリ投げ選手としては、例えばこれを地面に垂直に保持し、かつ、自分の前後左右の他人の動静を十分に確認するなど細心の注意を尽くすべき注意義務があつたところ、被告乙山は、本件事故現場において、ダックアウトから競技場に出て来るに際して、ヤリを地面と垂直になるように保持せず、ヤリ尻が自分の身体の斜前方に位置するように保持し、かつ周囲の安全を確認することなく、右競技場内を走つて同被告の近距離に接近して来ていた原告の方に漫然振り向いたため、この過失により、ヤリ尻が原告の左目付近に向けて動く結果となり、これを突き刺してしまつたものである。
(二) 被告金沢市の責任
(1) 在学契約に基づく債務不履行責任
原告と原告が本件事故当時在学していた高岡中学校の設置者である被告金沢市との間には、いわゆる在学契約が成立しており、これにより、被告金沢市は、原告に対し、教育する義務を負うとともに、その付随的義務として、学校教育の過程において原告の生命・身体に危険が生じないように万全を期すべき注意義務を負つていたものである。
また、原告は本件事故当時同校の陸上競技部に所属し、本件大会には右陸上競技部の一員として、同校教諭訴外瀬谷浩に引率指導されて参加したものである。そして、瀬谷教諭は、他校の教諭や陸協の役員等とともに本件大会の運営・管理に関与していたから、本件事故は高岡中学校の管理下における事故であるというべきである。
しかるところ、瀬谷教諭や右学校関係者らが前示の注意義務を尽くさなかつたために本件事故が発生したものである。
(2) 民法七〇九条
本件大会の主催者である陸協は、本件大会には、小学生から一般人までの者が参加し、かつヤリ投げや砲丸投げなど危険を伴う競技も予定されていたのであるから、参加者の生命・身体等に危険が生じないよう競技参加者・種目・方法等について万全の注意を尽くすべき義務を負つており、特にヤリ投げ競技に参加する選手に対しては、ヤリをダッグアウトに持ち込まないように注意し、また持ち込んだ場合にはダッグアウトからの出入りに細心の注意を払うよう警告し、もつてヤリに起因する本件のような事故の発生を防止すべき義務があつた。しかるに大会関係者らは、右注意義務を怠り、ヤリ投げという危険な種目のある競技会に小学生や中学生を参加させたばかりではなく、本件大会当日は風雨が激しかつたために、開会が遅れるや、ヤリ投げと砲丸投げとを並行して競技させるなどという危険な競技方法を採用し、そのまま漫然本件大会を強行し、またヤリ投げ競技に参加する選手に対しても、右に述べたような注意ないし警告をしなかつたため、本件事故が発生したものである。
しかるところ、本件大会の主催者である陸協は、金沢市体育協会(以下「体協」という)の加盟団体で、体協は金沢市から金沢市体育協会運営事業補助金の交付を受けているのみならず、その顧問は金沢市長、助役、収入役、市議会議長、副議長、市教育委員会、市教育長等である。そして、陸協の会長及び理事長はそれぞれ体協の参与及び常任理事であつて、両協会の役員は関連している。これらに照らして、陸協は金沢市と同視すべき団体といえる。
よつて、陸協主催の本件大会中に起きた本件事故については被告金沢市が責任を負うべきことになる。
(3) 民法七一五条ないし国家賠償法一条
前記のとおり、原告は、本件事故当時、金沢市立高岡中学校の陸上競技部に所属し、本件大会には右陸上競技部の一員として、瀬谷教諭に引率指導されて参加したものである。そして、同校校長は当時訴外庄田時中であつて、瀬谷教諭を指導監督すべき立場にあつた。
本件大会には、ヤリ投げ・砲丸投げ等危険を伴う競技が予定されていたのであるから、金沢市の被用者である瀬谷教諭及びその監督者である庄田校長は、本件大会参加にあたつて特にヤリ投げ競技中はその付近に近付かないよう原告らに注意すべき義務を負つていたものであり、また、本件大会当日は風雨が激しく競技に支障があつたのであるから、元来大会の開催そのものの中止を勧告すべき義務があり、さらにヤリ投げ競技開始後は、雨天のためヤリ投げ選手がヤリを持つてダッグアウトとヤリ投げのピットとの間を往復する可能性があるから、これに付随して起きる危険を生徒である原告らに対し十分に認識させ、ヤリ投げ選手に近付かないよう警告すべき義務を負つていたところ、瀬谷教諭も、これを指導監督すべき立場にあつた庄田校長もこの注意義務を怠り、もつて本件事故を発生させてしまつたものである。
右の次第であるところ、もとより瀬谷教諭及び庄田校長は金沢市の職員であつて、その職務を行うについて原告に損害を加えたことになる。
3 原告の損害
(一) 治療費 五八五万四一四〇円
(二) 入院雑費(一日一三〇〇円の入院期間分) 一九万二四〇〇円
(三) 付添看護料(一日五五〇〇円の入院期間分) 八一万四〇〇〇円
原告は、入院した昭和六一年一〇月一二日から約一箇月間意識不明の状態で、その後短い言葉を発することができ、またその約一箇月後歩行が可能となつた。原告が退院するまで原告の両親や親戚の者が四六時中交代で付き添つていた。
(四) 逸失利益 三三三六万七四〇一円
原告は、本件事故当時、健康な男子中学生であつて、満一八才から満六七才まで稼働できるはずであつたところ、本件事故に基づく障害(症状固定は平成二年六月一九日で、左上肢不全麻痺、左手関節及び左第一から第五指の屈曲固縮、右下肢不全麻痺、右足関節及び右第一から第五趾の屈曲固縮を認められたため、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないものに該当するから、自動車損害賠償保障法施行令別表所掲の後遺障害別等級表の第五級の二に相当する)のため、その稼働能力の七九パーセントを喪失した。そこで、昭和六三年賃金センサスによる産業計・企業規模計男子労働者の初任給平均賃金を基礎収入として、ホフマン式によつて中間利息を控除して計算すると、次のとおりとなる。
1,969,900×79/100×(25.8056-4.3643)=33,367,401
(五) 慰藉料 一三〇〇万円
原告の入院期間に照らせば、その精神的苦痛は三〇〇万円の支払をもつて慰藉するのが相当である。
また、原告の後遺障害による精神的苦痛は一〇〇〇万円の支払をもつて慰藉するのが相当である。
(六) 弁護士費用 三〇〇万円
原告は、原告代理人に対して、本件訴訟提起及びその追行を委任し、その費用として三〇〇万円を支払う旨約した。
4 むすび
よつて、原告は、被告乙山に対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、被告金沢市に対しては、<1>国家賠償法一条所定の公共団体として、<2>民法七一五条所定の使用者として、又は、<3>不法行為者本人として、そのいずれかによる損害賠償請求権に基づいて、原告の被つた損害合計五六二二万七九四一円のうち、既に支給を受けた治療費五八五万四一四〇円及び日本体育・学校健康センターからの障害見舞金八六〇万円を控除した残額である四一七七万三八〇一円と、これに対する本件事故当日である昭和六一年一〇月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金とを連帯して支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
(被告乙山の認否)
1 請求原因1(事故の発生等)について
(一) 同(一)ないし(三)について
いずれも認める。
(二) 同(四)について
原告の負傷及びその結果原告が石川県立中央病院に入院したことは認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2(一)(被告乙山の責任原因)について
(一) ヤリ投げ競技参加選手の一般的な注意義務の内容については認めるが、その余の事実は争う。本件事故の態様は、競技に赴くべくヤリを携えていた被告乙山の身体と原告とが衝突し、そのはずみでヤリ尻が原告の顔面に当たつたというものである。
(二) 一般に、スポーツ競技会においては、競技主催者のみならず、参加した競技者においても、競技及び競技場使用に関するルールや主催者側の指示を遵守し、自己及び他の競技者の競技に内在する危険を予知ないし回避し、安全を保持する義務を負うものであり、特に競技者相互間では、競技中ないし競技開始直前の競技者が極度に緊張していることを十分に認識した上で、その妨げになるような行為を慎むべき義務を負つている。また、競技参加選手としては、競技場内においてトラック以外の場内を走らないこと、場内移動にあたつてはダッグアウトを利用すること、試技中又はその態勢に入ろうとしている選手の競技を妨げる行為をしてはならないこと等は当然のマナーとして心得るべきことである。
(三) しかるに原告は、
(1) 付近で競技が行われているときに、グランドからその外へ出るにはダッグアウト内又はスタンドの通路を通行すべきであるのに、場外部分を走り抜けようとし(以上の位置関係については、別紙第一、第二現場見取図(一)、(二)参照)、
(2) 審判員が競技開始前に原告ら砲丸投げ選手に対してヤリ投げ競技の競技場や選手待機場所には行かないこと等を注意したにもかかわらず、これに違反してヤリ投げ競技場に走つて近づき、
(3) 審判員の許可なく移動してはならないのに、これに違反し、
(4) ヤリ投げ競技場付近ではヤリを持つて行き来する選手がいたのであるから、そこを通行するにあたつてはヤリ投げ競技参加選手の動静に十分に注意し、周囲の安全を確認すべきであつたのに、漫然といきなり走りだし、
以上の自らの不注意により被告乙山と衝突したものである。
(四) 被告乙山は、原告主張のような方法でヤリを保持していたことはなく、また本件事故現場はヤリ投げ競技の競技場内ないしはその至近範囲内に含まれて他の競技者がみだりに通行することを許されていない場所であり、現に被告乙山がヤリ投げ競技の助走路に向かつて歩きだす直前まで、同被告の周囲には誰もおらず、さらに当時同被告は試技中又はその直前でこれと同視すべき状態にあつたから、そのような緊張状態下にある運動選手にとつて、自分の位置に向けて走りながら接近する者の存在を予見することは不可能を強いることになる。他方原告は競技参加選手としての心得ないし審判員の具体的な指示に違反して同被告の競技を妨げたものである。以上により、本件事故の発生は被告乙山にとつては不可抗力というべきである。
3 同3(原告の損害)について
知らない。
(被告金沢市の認否)
1 請求原因1(事故の発生等)について
(一) 同(一)及び(二)について
いずれも認める。
(二) 同(三)について
原告が傷害を負つた事実は認める。
(三) 同(四)について
原告が昭和六一年一一月一二日から昭和六二年三月九日までの一四八日間、訴外石川県立中央病院に入院し、退院後も現在まで同病院に通院していることは認める。
2 同2(二)(被告金沢市の責任原因)について
(一) 同(1)について
原告が、本件事故当時、金沢市立高岡中学校の陸上競技部に所属していたこと、同校教諭瀬谷浩が本件大会に原告らと同行したことはいずれも認める。
その余の主張は争う。瀬谷教諭は、陸上競技部顧問として、年一二、三回、同部を引率して対外試合に出向き、そのつど原告を含む同部の生徒に試合参加にあたつての注意をしている。そして、本件大会当日、競技開催前に、原告を含む同校部員に対し、競技場使用時のマナー及びきまり、特に競技場内では競技者優先で競技者の前を絶対に横切らないこと、競技出場選手の招集場所及び招集後は係員の誘導に従い、またみだりに競技場所を離れないこと、瀬谷教諭は当日審判として持ち場を離れることができないので、何かあつた場合には必ず当日審判員である同教諭のところまできて指示を受けること等の注意をした。同教諭には、本件大会がいつたん開始されたのちは大会の進行に応じた具体的注意をする義務はなく、在学契約に基づく指導監督義務は尽くされたと評価すべきである。
(二) 同(2)について
陸協が、体協の加盟団体であり、体協が金沢市から金沢市体育協会運営事業補助金の交付を受けていること、金沢市長、助役、収入役、市議会議長、副議長、市教育委員長、市教育長等が体協の顧問であること、陸協の会長及び理事長はそれぞれ体協の参与及び常任理事であることは認める。もつとも、右補助金は公共性のある各種協会の健全な発展に寄与するために協賛の趣旨で交付しているもので、その使途は各種協会において自主的に決定されており、また、金沢市長らが体協の役員であるのは名誉職としてであつて、他に民間人の体協の顧問になつており、また陸協の会長はじめ各役員には多数の民間人が就任している。
本件大会関係者の当日の注意については、審判長田口秀雄が競技開始前放送で「本日は雨なので特に注意するように、」「事故防止のため、勝手な行動をとらないように」、「移動は全員がまとまつてダッグアウトの中を移動するように」、「競技場に入つたら審判員の指示に従うように」などと参加選手全員に向けて注意しており、また、ヤリ投げ審判員岡本史朗において、原告ら中学生砲丸投げ選手がその待機場所に来た際、砲丸投げ審判員岡部佐武郎に対し「いまヤリ投げをやつているから、その場所で待機していると危ないから別の場所に移動させてほしい」と要請し、これに応じて右岡部は原告を含む選手を別の場所に移動させた上、右選手に対し「隣でヤリ投げをやつているので、ヤリ投げの選手が出入りする場所を横切つてはいけない」旨の注意をしたものである。
以上のような金沢市と体協との関係、本件大会における具体的な注意と指導の内容等に照らして、金沢市が本件事故について責任を負うべきいわれはない。
(三) 同(3)について
原告が、本件事故当時、金沢市立高岡中学校の陸上競技部に所属していたこと、同校教諭瀬谷浩が本件大会に原告らと同行したこと、同校校長が当時庄田時中であつて、瀬谷教諭を指導監督すべき立場にあつたことはいずれも認める。
その余の主張は争う。その趣旨は右(一)記載のとおりである。
また、本件事故については、その発生する危険性を具体的に予見することは不可能である。本件事故は、突発的に発生したものであつて、予見可能性がなく、学校長及び教師には職務上の過失があつたとはいえない。
3 同3(原告の損害)について
知らない。
三 抗弁
1 過失相殺(被告乙山の主張)
本件事故当時、原告の陸上競技選手としての知識、危険に対する予知ないし認識能力は成人に準ずるものであつたのに、右二の請求原因に対する認否欄において既に主張したとおり、原告は自ら危険に接近したと評価すべきであつて、原告が本件事故発生に寄与した割合は、少なくとも九〇パーセントを下らない。
2 瀬谷らの義務履行(被告金沢市の主張)
本件事故に関して原告が主張する高岡中学校関係者らの指導監督義務は、右二の認否中において既に述べたことからして、十分に尽くされていたものである。
四 抗弁に対する認否
いずれも否認し争う。
第三 証拠《略》
【理 由】
一 請求原因1について
昭和六一年一〇月一二日、石川県西部緑地公園陸上競技場において、陸協が主催する本件大会が開催されたこと、原告が当時金沢市立高岡中学校一年在学中で本件大会には砲丸投げ選手として出場しており、また被告乙山が当時金沢大学一年在学中で、同じくヤリ投げ選手として出場していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右同日午前一一時ころ、本件事故が発生したことについては、《証拠略》によつてこれを認める(後段の事実は原告と被告乙山との間では争いがない)。
そして、《証拠略》によれば、原告がその主張のとおり、傷害を負い、訴外石川県立中央病院に入通院したことを認めることができ、さらに原告の現状については、《証拠略》によつて、原告主張のとおりであると認めることができる(原告の傷害の内容及びその結果原告が同病院に入院したことは原告と被告乙山との間で争いがなく、原告が昭和六一年一一月一二日から昭和六二年三月九日までの一四八日間、同病院に入院し、退院後も同病院に通院したことは原告と被告金沢市との間で争いがない)。
二 請求原因2について
1 当日の天候について
《証拠略》によれば、当日は相当ひどい横なぐりの風雨のあつたことが認められる。
2 本件事故直前の原告の行動について
《証拠略》によれば、原告は、別紙第二現場見取図(二)のエ点付近で待機していたところ、原告の同僚選手の競技の番になつたのに同選手が近辺にいなかつたため、これを呼んでくるように右岡部から指示されたこと、そこで、いつたん砲丸投げ競技場からほぼ最短距離をたどつてダッグアウトの手前(同図面<1>点)まで行つた上、そこでダッグアウト内(同図面イ点)にいた別の同僚選手(遠藤国治)に話して、自ら呼んでくることを告げたこと、それから、ダッグアウト内に降りないまま、同図面の場外部分を同図面<2>点方向(メインスタンド方向)に向け、降雨を避けてうつむき加減の姿勢で、ゆつくり(原告本人の表現では「駆け足より少し速い程度で」、また右遠藤の表現によれば「ジョギングより少し早い走り方で」)走つていつたこと、それからすぐに本件事故が生じたこと、以上が認められる。
3 本件事故直前の被告乙山の行動について
《証拠略》によれば、同被告は、審判から第三投目の試技に備えるためのコールをハンドマイクで受けたので(この「コール」は、試技を開始せよとの趣旨の「コール」とは別のものである。なお、同被告本人の供述では、この「コール」があつたためというよりも、同被告の前の順番の選手がヤリを投げようとしたのを見たので、自ら試技に備えるべくダッグアウトから出ようとしたようでもある)、ダッグアウトから別紙第二現場見取図(二)の「場外部分」に上がり、そこ(A点)からそのプレーを開始すべく場外部分から助走を開始する地点に移動を始め、一、二歩前に出た同図面B点で<2>点の原告と接触したこと、この接触地点は、助走開始地点まで約二〇メートルしかない地点であり、選手によつては場外部分付近から助走を開始することもあること、以上が認められる。
そして、《証拠略》によれば、ヤリ投げ競技の場合、審判は、前の選手が投げ終わつて三〇ないし四〇秒後には次の選手をコールすること、選手は、試技せよとのコールを受けてから一分三〇秒以内に投擲(とうてき)するものと定められているが、普通は三〇秒以内に投擲することが認められる。
4 本件事故における接触の態様について
《証拠略》によれば、右接触直前の原告と同被告の位置関係は、同被告の身体の右側部分に原告の身体の正面が向かうというものであつたことが認められる。なお、この点について、原告本人の供述するところによれば、被告乙山は原告に背中を向けて、原告と同じ方向を向いていたところから振り返つたというのであるが、その「同じ方向」という表現は必ずしも右認定と相反するものではないと考えられる(同被告が「振り返つた」かどうかについては、後記のとおり)。
次に、《証拠略》によれば、本件事故当時、同被告は右手にヤリを持つていたこと、そのヤリ「以下「本件ヤリ」ということがある)の形状は別紙第三記載のとおりであること、その保持の態様は、ヤリ先が同被告の右後方の地面を指し、ヤリ尻が同被告の右前方の空を指す形で、ヤリのほぼ中央付近を握り、同被告の右腕側の脇を体に付けるような感じであつて、その前腕はまつすぐ前方か、あるいはそれより多少上か下に曲がつている程度であつたことが認められる。したがつて、ヤリの先と尻を結ぶ線は同被告の身体の右側面においてその身体の前後方向に沿うような位置にあつたことになる。換言すれば、同被告の身体の前側で、ヤリ先が左前に、ヤリ尻が右前になるような、すなわち身体の左右方向に沿うような位置関係ではなかつたことになるわけである。
次に、弁論の全趣旨によれば、原告の当時の身長は一六五センチメートルであつたことが認められ、《証拠略》によれば、原告と被告乙山との接触の直前同被告が右方向へ、すなわち原告のやつてくる方向に振り向いたことが認められ、この動作に伴つて同被告が右手で保持していたヤリの尻が原告の顔面に向く位置関係になつたこと、以上が認められる。この点について、同被告はその本人尋問において必ずしも明言していないけれども、その供述全体を総合すると、振り向いた可能性を否定しているわけではないと認められる。加えて、同被告が本件事故直前原告が走つてくる方向へ向き直つたかどうかは、同被告が手に持つていたヤリの尻が原告の目の高さに位置していたからこそ本件事故が生じたという、現実の事故態様から合理的に考察すべきものであるところ、前述のとおり、同被告がヤリを右脇に沿うように携えていた以上、同被告において原告の来る方向へ向き直らないかぎり、ヤリ尻が原告の目に突き刺さるという本件事故は通常発生するはずがないといえるからである。
なお、被告乙山は、本件事故の態様について、先に原告の身体が被告乙山の身体に衝突し、そのはずみで被告乙山が持つていたヤリの尻の部分が原告の顔面に当たつたと主張するが、《証拠略》によれば、本件ヤリの長さは二・二一メートルに及ぶものであつたことが認められ、このような長さのものの中央付近を握つていたとき、一・六メートル程度の身長の身体と身体との接触の後に、そのはずみでその突端が一方の顔面に突き刺さるなどということは、通常あり得ないことと考えられる。いずれにせよ、同被告本人の供述を総合しても、にわかに同被告の右主張を認めさせるものではないし、他にこれを認めるべき確たる証拠もなく、加えて、前示のような本件事故の機序を説明する接触態様として、前認定の接触態様に比べて遥かに不自然なものといわざるを得ないので、右主張は採用できない。
5 被告乙山の過失について
つぎに、右に認定した事故態様を前提にして、被告乙山の過失の存否について判断する。
(一) 競技が行われている場合の関係者のマナーについて
《証拠略》によれば、本件大会において、競技が行われている場合、当該競技の選手以外の者は、当該競技が優先して行われるよう配慮するのが当然のこととされていたこと、もとよりこのことは本件大会に参加していた陸上選手の常識であつたといえること、そのため競技中は必要のない限りトラック及び場外部分(以下「トラック等」という)に出ることは控えるべきこととされていたこと、トラック等を横切る必要がある場合にも可及的に最短距離で横切るべきものとされていたこと、トラック以外の場内は走らないようにすべきものとされていたこと、以上の事柄は各学校における陸上部員やその指導者らないし陸上選手ないしその関係者ら一般に対し日頃から注意されていたものであること、以上が認められる。
(二) ダッグアウトの利用について
《証拠略》によれば、本件大会の開会式において、審判長から競技場への入退場はダッグアウトを利用するよう特に何回も注意されていたこと、原告自身も通常の場合ダッグアウトを利用して移動するようにしていたものであること、本件大会の砲丸投げの審判員であつた岡部佐武郎は、原告ら砲丸投げ競技の選手に対して、ヤリ投げ競技が隣接して行われていたことからヤリ投げの助走路に入らないようにという具体的な指示を特にしていたこと、にもかかわらず、本件事故の際原告がダッグアウトを利用せず場外部分を通行したのは、たまたまその当時激しい降雨があつたためダッグアウト内が混み合つている様子に見えたからであること、ダッグアウト内を通行して移動すべきものとする前記の指示は必ずしも大会参加者全員に徹底していたわけではなく、これに従わない者が僅かにあつたようであるが、本件事故当時においては、かなりの降雨があつたため、場外部分を通行する者はほとんどいなかつたこと、以上が認められる。
(三) 競技中の選手の注意義務について
先に述べたとおり、本件事故時、被告乙山はヤリ投げ競技の第三投目のためのコールを受けて、これから開始すべく場外部分から助走路の方に移動し始めたところであつたところ、《証拠略》並びに経験則によれば、陸上競技の選手はその具体的な現実のプレーを開始する前からプレーに向けて既に極度に緊張している状態にあること、本件事故当時被告乙山も既に自分の第三投目の競技に神経を集中させ、極めて緊張した状態にあつたこと、そのような状態にある選手にとつてプレーと直接関係のない事柄について注意が薄れる結果となることはやむを得ないことであつて、陸上競技の大会において、これに参加した関係者一同に了解されている道理であること、そうであるからこそ、当該競技者以外の関係者において、そのような選手のプレーを妨げないように注意を払うべきことは当然視されていたこと、以上が認められる。
(四) 一般的な危険について
証人岡本史郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、同証人は、日本陸上競技連盟の終身第一種公認審判員の資格を有するものであるところ、ヤリ投げ競技用のヤリを普通に片手で持つた場合、地面に対して約四五度を指すような状態になり、ヤリ尻が大体目の高さになるけれども、同証人の従来の経験ではそれによつて他人に傷害を与えたということはなく、危険を感じるような事態に遭遇したことのなかつたこと、ひいては、周囲に他人がいるなどの場合を除いて、一般的にヤリを地面に対し垂直に保持しなければならないといえるほどの確固たる原則がヤリ投げ競技関係者間に確立していたわけではないこと、以上が認められる。
また、原告は、本件事故の一因として、被告乙山がヤリをダッグアウト内へ持ち込んでいた点を指摘するが、《証拠略》によると、雨の日はヤリの握りの部分が滑らないようタオルで拭く等のために、ヤリ投げ選手がヤリをダッグアウトの中に持つて入ることは許されていたことが認められる。そして、被告乙山がダッグアウトにヤリを持ち込んだことと本件事故の発生との間には、単なる条件関係があるだけであつて、何ら相当因果関係を認めることができない。
(五) 被告乙山の過失の存否
以上の検討結果、その他《証拠略》上本件に現れた一切の事情並びに経験則に照らして、被告乙山の過失の存否について更に検討する。
まず、本件事故の際被告乙山が携えていた本件ヤリは、鋭利な両端を有する器具であつて、それを手にしている場合、近傍の他人の身体に対して危害を及ぼすおそれのあるものであり、このことは、同被告のみならず、原告本人を含めて本件大会関係者らの誰しもが容易に認識できたものと認めることができる。
しかしながら、本件事故の現場は、少なくとも各選手によるヤリ投げ競技が現に実施されている最中においては、他の選手ないし大会関係者らはこれを妨害してはならず、競技選手の集中を妨げないためその付近を通行してはならなかつた場所であつたこと、仮にやむを得ず通行する場合にも、あくまでもプレーが優先されるべきであつて、プレーに伴つて通行者側に生じる抽象的危険は通行者側において回避しなければならなかつたこと、そして、陸上競技場内という場所柄からして、競技関係者以外の者が右の付近を通行することは予定されていなかつたものであつて、競技関係者であれば前示のようなマナーを当然身につけているものと競技者側が期待することが許されていたこと(ちなみに、本件大会には小学生も参加していたが、本件各証拠及び弁論の全趣旨によると、本件事故当時、本件事故現場付近には小学生はおらず、陸上競技選手権大会関係の中学生以上の者だけがいたものと認められ、右のように期待することは許されていたものといえる)、また、現に、本件大会当日も参加選手に対して、移動に際してはダッグアウトを利用すべきことの指示があつたこと、しかも、本件事故当時相当の降雨があつたことも加わつて、競技関係者は一般にダッグアウトを利用して移動しており例外の者はほとんどいなかつたこと、以上の状況にあつたものである。
このような状況下にあつて、被告乙山は、まさにプレーに入るべく助走開始地点に向かつて歩き始めたところであつて、先に認定したとおり助走開始地点まで二〇メートルほどの地点にあつて、一分ほど後には現実にヤリを投擲しなければならないという状況にあつたことに照らすと、未だ助走を開始していないという意味でプレーそのものは開始されていなかつたにせよ、プレー開始寸前特有の緊張状態にあつたものであり、かかる状態にある競技選手は、現に認識予見し、又は特に予見できた危険があつた場合は別として、単に抽象的に前示の趣旨での危険性を有する器具を保持しているからといつて、プレー寸前の選手の行動領域に第三者が急に進入してくることまで予想して、すなわち、自己の競技へ集中する一方で、さような不心得な偶発的第三者がありうることまで予想して、万全を期すべき注意義務までは負つていないものというべきである。けだし、大会選手として競技に「集中」しなければならない競技者に対し、そのような偶発的事故の発生まで回避すべきことを要求するのは、結局この「集中」を許さないに等しく、酷であるからである。このことは、例えばオリンピックのような大会であれ、本件のような金沢市内における小規模の陸上大会であれ、同様に妥当する。ことは、多数の関係者が集まるスポーツ大会において実施される各競技がそれぞれ有する危険とその回避を誰の負担とするのが妥当かという問題であつて、その趣旨においては、大会の規模の大小は関係しないというべきだからである。すなわち、本件事故は、例えば被告乙山が原告在学の中学校ないし同被告在学の大学のグラウンドでヤリ投げの練習をしており、不測の危険を回避すべく常に四囲の安全を確認すべき状況にあつて、事故を発生させたというものでは全くなく、被告乙山は、右認定の内容の本件大会において、まさに具体的競技を開始するため助走路に向かつて歩き始めたものであつて、このようにヤリを保持して助走路に向かつて歩いている競技者に対してわざわざ接触してくる者があることなど、到底容易に予測できない状況にあつたものである。このような状況にあるヤリ投げの競技者は、次に述べる原告のような偶発的行為のありうることを予見すべき義務までは負つていないものというべきであり、ひいてはこれを予想してヤリを地面に対し垂直に保持しなければならなかつたという注意義務のあることを肯認することもできない。
以上を、原告側の行動をも加味した上で、前記検討結果、前掲各証拠、弁論の全趣旨及び経験則を総合して更に検討すると、以下のとおりというべきである。すなわち、原告は砲丸投げ選手の一人として本件大会に参加したものであつて、移動に際してはダッグアウトを利用すべきことを知つており、かつ、当日もその旨の注意を受け、また隣接して行われていたヤリ投げ競技の助走路に入らないようにという具体的な指示をも受けていたこと、にもかかわらず原告が不幸にして駆け足でかつうつむき加減の姿勢で被告乙山の方に接近してしまつたのは、おそらく当時相当の降雨があつたためであり、右のようにして進路前方をよく見ずに走つたため、同被告がヤリを保持して助走路に向かつてゆこうとしているのを見ていなかつたものであろうこと、他方被告乙山は競技寸前であつたが、ヤリをことさら他人に危険な方法で保持していたわけではなく、自己の視線外から自分に急接近してくる者の物音に一瞬驚き、その方向に僅かに振り向いたため、ヤリが原告の方に向いてしまい、本件事故が発生してしまつたこと、以上のとおりと認められ、以上の本件事故にかかる前記諸般の事実関係を総合すると、本件事故を回避すべき注意義務は、被告乙山との相対的関係において、もつぱら原告にあつたものといわざるを得ず、本件事故の発生につき、被告乙山に注意義務違反があつたとする原告の主張については、証拠上これを認めることができないに帰する。
6 高岡中学校の関係者らに落度があつたことを前提とする被告金沢市の責任原因について
(一) 《証拠略》によれば、原告らは本件大会に高岡中学校生徒として参加したものであり、同校教諭である瀬谷浩が原告らを引率していたものであることが認められ(原告が、本件事故当時金沢市立高岡中学校の陸上競技部に所属し、本件大会には右陸上競技部の一員として、同校教諭訴外瀬谷浩に引率指導されていたことは、原告と被告金沢市との間で争いがない)、《証拠略》によれば、原告自身も高岡中学校の代表として参加出場したものとの認識を有していたこと、ひいては、原告の本件大会への参加は高岡中学校の教育活動の一環として実施されたものであると認めることができる。
(二) そして、《証拠略》によれば、本件大会当日、瀬谷教諭は、原告らに対し、事前の指導として、競技内容、マナー、服装等についてミーティングをし、特に天候が悪いので競技中の一般的行動や、怪我その他の救急の場合の対処の仕方などについて注意したことが認められ、また、先に認定したとおり、原告は中学校一年生ながら、既に陸上選手としてのマナーを少なくとも知識としては弁えており、これがそれまでの高岡中学校のクラブ活動における指導の成果でもあつたと認めることができる。
ところで、《証拠略》によれば、瀬谷教諭は、午前一〇時四〇分ころから本件大会のプログラムの一つである、一〇〇メートル走、二〇〇メートル走等のトラック競技の計時係をしており、原告らに付き添つていなかつたことが認められ、さらに、《証拠略》によれば、原告は、瀬谷教諭からヤリ投げ競技の選手がダッグアウトにヤリを持込んでいる旨の具体的な注意を受けたことはないことが認められる。しかしながら、本件大会に参加する選手を引率する教師としては、引率生徒の年齢、認識能力、クラブ活動歴及び競技会参加経験や他の監督者との役割分担等に即して、相応の注意なり指示を与えれば足りるものであつて、生徒が中学生でしかも陸上部の者であつた以上、個々具体的な局面に応じて詳細な指導を行わなくともその注意義務を果たしたというべきであつて、これを本件事故に則して見ると、ヤリ投げ競技用のヤリがその用法によつては人の身体に危害を加える可能性があることや、ヤリ投げ競技のプレーを妨害しないためにも、同競技のプレー中にはその付近に近寄らないように殊更に注意しなければならないわけではないというべきである。すなわち、この程度の競技場におけるマナーは、原告の年齢・競技歴等に照らして自明であつたものと考えられ、また、前に見たように本件大会に先立ち審判長からも一般的指示ないし注意があつたものであるから、更に具体的な局面においては当該競技の審判員ら競技関係者にその指導を委ねることも許されていたものというべきところ、このような指導も前に見たとおり現実にされたのであるから、本件において瀬谷教諭に原告に対し必要な指示ないし注意をしなかつたという注意義務違背があるとはいえず、仮にこれを肯定したとしても前示のとおり他の大会関係者らによつてそのような注意が十分にされていたものである以上、右の注意義務違背と本件事故の発生との間には相当因果関係がないものというほかない。
(三) また、原告は、瀬谷教諭ら高岡中学校関係者には、大会の開催中止を勧告すべき義務があつたとも主張するけれども、前に検討したところから明らかなとおり、本件事故は全く偶発的なものであつて、本件大会の開催と本件事故の発生との間には相当因果関係を認めることはできないから、右をもつて被告金沢市の責任原因とすることはできない。
(四) まとめ
以上の次第であつて、本件事故の発生との関係において、瀬谷教諭ら高岡中学校関係者に格別の落度があつたとは到底認めることができないから、これを前提とする原告の請求はその余の点について論ずるまでもなく失当であるに帰する(在学契約に基づく請求につき、債務の履行の挙証責任が被告金沢市にあるとしても、抗弁に理由があることになる)。
7 陸協の行為に基づく金沢市の責任について
既に検討したことから明らかなとおり、ヤリ投げの助走路に向かつてヤリ投げの選手がヤリを持つて歩くことは、本件大会関係者の誰もが知つており、もとより原告も知つていたのであるから、そのような競技者に対し自ら近寄つて危険を生じさせる者のあることなど容易に予測できない事柄であつて、そのような事態を予測しなければならないのであれば、およそ陸上競技大会の開催自体許されないことにすらなる。すなわち、本件事故は全く偶発的なものであり、陸協の関係者にも予測し得なかつたものといえるので、陸協についても、原告主張に係る注意義務違背を認めることができず、かつ仮にこれを認めても、それをもつて本件事故と相当因果関係があると認めることができない。また、仮に陸協に何らかの過失があるとするときにおいても、そのことのゆえに金沢市が責任を負うべきことについても、証明がないに帰する。
したがつて、この点を理由とする原告の請求もまた採用できない。
三 結論
以上のところから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴各請求はいずれも理由がないことになるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決をする。
(裁判長裁判官 伊藤 剛 裁判官 橋本良成 裁判官 伊藤知之)